金融庁 平成28年度 金融レポート

金融庁より平成28年度金融レポートが公表されました。これは、前年に公表された平成28年度金融行政方針の1年間の進捗状況や実績の評価まとめたものです。レポートは以下のリンクよりご覧になれます。

http://www.fsa.go.jp/news/29/20171025.html

レポートの本文は全部で142ページにも及びますが、その中で私の目に止まったのは、37~40ページの保険会社に関する顧客本位の業務運営と46~76ページの顧客本位の業務運営の確立・定着等を通じた家計の安定的な資産形成です。以下にそれぞれのポイントを簡単にまとめました。

保険会社における顧客本位の業務運営

1.商品販売時における顧客への情報提供に関する課題

保険販売時の顧客の判断に必要と思われる、下記のような情報が適切に提供されていないケースがあった。

  • 子供向けに医療保険を募集する際の子供向け医療費助成制度に関する情報
  • がん保険募集時における、年代別罹患率の情報

2.有配当契約における契約者間での公平な配当
生命保険会社は、危険差益によって安定的に内部留保の蓄積が進む一方、剰余金(利益)の配当に関しては、契約者間で公平性を確保した配当ができる実務的な態勢が整っているかについて実態把握を行っていく。

3.保険会社による代理店チャネルを通じた保険販売等

  • 2016年10月以降、特定保険契約(変額保険、外貨建て保険、市場価格調整機能を有する保険)については、販売代理店である金融機関が保険会社から受け取る手数料の開示が行われているが、それ以外の保険は、ほとんどの金融機関で手数料の開示が行われていない。また、一部の金融機関では依然として全く手数料を開示していないところもある。
  • 乗合代理店が保険会社から受け取る募集手数料やインセンティブ報酬については、乗合代理店における丁寧な顧客対応やアフターフォローなどの役務やサービスの対価としてふさわしくないものが認められた。保険会社から支払われる手数料も原資は保険契約者から預かった保険料であることを踏まえると、顧客にきちんと説明ができる合理的なものとしていくことが重要である。

顧客本位の業務運営の確立・定着等を通じた家計の安定的な資産形成

このパートは、日米の家計が保有する金融資産構成の比較、わが国における投資信託の販売状況と問題、家計の安定的な資産形成に向けた取組み、といったことについて報告されています。内容は、日々メディアを通じて報道されていることも多く、あまり目新しい事柄は無いように思いましたが、簡単にまとめると以下の通りです。

  • 日米の家計金融資産残高全体の推移を比較すると、過去20年間で米国では3倍以上に大きく増加している一方、わが国では約1.5倍の増加に留まっている。その構成については、米国では株式・投資信託の割合が1995年に39%であったものが、2016年では46%とさらに上昇している一方、わが国においては、現預金が過半を占める構造は変わっておらず、株式・投資信託の割合は2016年において19%に留まっている。
  • 米国においても、1980年代中ごろまでは、株式・投資信託の割合は日本と同程度であったが、確定拠出年金(DC)の普及とともに割合が高まってきた。
  • わが国の投資信託の販売は、テーマ型、毎月分配型など長期の資産形成に向かないものが提供されていることが多く、依然として回転売買が行われていることが窺われる。
  • 家計の安定的な資産形成を実現するために、金融庁では、顧客本位の業務運営の定着に向けた取組みや、「つみたてNISA」の創設、実践的な投資教育の推進等の取組みを進めている。

私の感想・意見

本金融レポートについて、わたしの感想、意見は以下の通りです。

  • まず、金融庁の第一の目標は、「家計の安定的な資産形成」であるため、投資信託の販売状況や課題については、かなり詳しく書かれていると感じました。その一方で、保険商品の販売に関することがあまり深堀されていないことについては、物足りなさを感じました。上のまとめでは、私自身の関心の大きさから保険のパートの方が長くなっていますが、元のレポートの中では、保険は4ページ、投信は30ページと扱いに大きな違いがあります。保険も家計支出に占める割合は小さくなく、契約者から集めたお金を保険事故に応じて還元するという仕組みからすると、投資信託と同じくらい重要なはずです。
  • 前年の金融レポートで取り上げられていた、パッケージ型保険商品の問題についてのアップデートが無く、残念でした。その代わり、がん保険の販売時における情報提供の問題(生涯の罹患率だけを取り上げて「2人に1人はがんになる」と不安にさせる)が取り上げられたことは、ちょっと前進でしょうか。同じ観点で言うと、顧客が健康保険組合の被保険者である場合の、組合の付加給付の確認も挙げられるでしょう。
  • 金融機関が保険会社から受け取る手数料の開示が始まりましたが、これもまだまだ改善の余地があると思います。開示の対象をすべての保険商品とすることや、ネットを通じて開示することによって、もっと保険商品間の比較をしやすくすることが必要でしょう。
  • また、手数料だけにとどまらず、付加保険料の開示もするべきではないでしょうか。付加保険料とは、保険料のうち、事業費として使われる部分で、投資信託でいう信託報酬にあたるものです。これによって、保険料の水準がそのサービスの対価としてふさわしいか判断しやすくなるし、また、価格競争も促進されるのではないでしょうか。
  • 米国の投資信託の保有比率がDCの導入をきっかけに高まってきたという説明がありましたが、これに付け加えるなら、デフォルト商品が投資信託に設定されていたということがあると思います。レポートの中でも、日本ではデフォルト商品の9割以上が元本確保型商品に設定されているということなので、この部分を何とか変えることができないのかと思います。聞いた話ですが、デフォルト商品を投資信託に設定している企業型DCは、加入者の投信選択比率が全DCの中で一番高くなっているそうです。当たり前という感じもしますが、ちょっとした仕掛けで加入者の行動が大きく変わる可能性があることを示唆しているのではないでしょうか。
  • 最後に余談ですが、最近行った講演で、「日本人の一人当たりGDPは世界の中でも低い方で、日本人は生産性が低く、特別勤勉なわけでもない」という話を聞き、少々ショックを受けました。でも、日本人が米国と同様に株式や投資信託を保有していたら、どうだっただろうかと考えてみました。私は、経済学の専門家ではありませんが、バブル以降も何度かあった株式の上昇局面では株式と投資信託の価格上昇による資産効果で、個人消費がもっと押し上げられていたのではないでしょうか、、、

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