一時払い外貨建終身保険の見える化(後編)

一時払い外貨建終身保険の後編です。ところで「一時払い外貨建終身保険」という名前はちょっと長いので、今回のブログでは、「外貨建保険」と短縮して呼びたいと思います。

前編では、外貨建保険の商品説明、積立利率と実質的な利回りの違いについて解説しました。

今回は、外貨建保険のリスクと比較対象となる金融商品について見ていきたいと思います。

1.外貨建保険のリスクは複雑

外貨建保険のリスクをまとめると、以下の通りになります。

  • 解約時や死亡時に支払われる金額は外貨で決められているので、外貨を円貨に替える時の為替レートの水準によって、円貨での受取額が変動する。
  • 外貨の金額も、解約時や死亡時における積立利率の水準によって変動する。

簡単に言えば、米ドル建の外貨保険の場合は、ドル円の為替レートと積立利率の水準によって、円貨で受け取る額が変動するということです。

しかし、実際はそれほど簡単ではありません。下の商品説明の抜粋を見て下さい。この表は、契約後10年間の積立金額、解約返戻金、死亡保険金のドル建の金額が表示されています。また、それに加えて、為替レートが±10円変動した場合の解約返戻金の円貨額(左側の赤丸部分)と、積立利率が±1%変動した場合の解約返戻金のドル建の額(右側の赤丸部分)が表示されています。

これを見ると大まかには、以下のようなことが分るでしょうか。

  • 円安になれば円貨の額が増えて、円高になれば円貨の額が減って場合によっては元本(1千万円)を割るケースもある。
  • 市場金利が上昇するとドル建ての解約返戻金は減少し、積立利率が低下するとドル建の解約返戻金は増加する。

しかし、この情報だけでは、私たち顧客が特に知りたいこと、すなわち「この外貨建保険を契約することによって、将来円貨でいくらのリターンが得られるか。逆に、どの位元本を下回る可能性があるのか」ということは分かりづらいでしょう。なぜなら、以下のような疑問に対する答えが明示されていないからです。

  • 為替レートの±10円とか、積立利率の±1%という変動幅が十分なのか。例えば、為替レートは過去80円を下回ったこともあったので、±30円位は見た方が良いのではないか。
  • 円高と積立利率の低下が同時に起きた場合は、円建の解約返戻金にそれぞれマイナスとプラスの影響を及ぼすが、トータルではどうなるのか。

そこで、平準払いの外貨建終身保険でお見せしたように、シミュレーションの手法を用いて外貨建保険のリスクを見える化してみたいと思います。

2.外貨建保険のリスクを見える化する

シミュレーションの方法は、平準払いの外貨建終身保険の時と同じようにやったので、詳細はそちらの説明を参照してください(関連ブログのリンク)。

今回は、シミュレーションする変数が為替レートと積立利率の2つになります。積立利率は、米国債の10年利回りと連動して動くものとしています。

それでは、これまで例として挙げてきた米ドルの外貨建保険(一時払い保険料1千万円)について、1万回のシミュレーションに基づいて得られた契約後5年と10年における解約返戻金と死亡保険金が円貨でいくらくらいになるか見てみましょう。

5年後の解約返戻金だと、10%の確率で831万円を下回り、5%の確率で774万円を下回る可能性があると示されています(左の表)。

また、10年後の解約返戻金だと、10%の確率で904万円、5%の確率で824万円となっています(右の表)。10年後の解約返戻金と死亡保険金が同じになっているのは、10年後のドル建ての金額が、積立金と解約返戻金ともに同じになる商品設計だからです。

ところで、上の表の表題に「相関ゼロ」と表記されていますが、これはどういうことでしょう。

これは、2つの変数、すなわちドル円の為替レートと積立利率は、相関係数ゼロで変動すると仮定していることを意味します。

一方、ドル円の為替レートは日米の金利差の影響を受けるという解説を耳にすることがあると思います。つまり、積立利率(≒米ドルの市場金利)が低下すると円高になり、利率が上昇すると円安になる傾向があるということで、正の相関があるという仮定は一応理にかなっています。

そこで、2つの変数の相関係数を0.5としてシミュレーションしたらどうなるでしょうか。下の表をご覧ください。

5年後の表を見ると、相関がゼロの時より金額がアップしていますね。これは、正の相関の場合、円高の時には積立利率が低下する傾向になるので、円高によるマイナスの影響を積立利率の低下によるプラスの影響がある程度相殺する形になるからです。

また、10年後の表では、相関の違いによる影響はあまりないようです。これは、先に説明した通り、積立利率の影響は年を経る毎に小さくなり、10年後にはゼロになるからです。

このように、5%、10%といったある一定の確率の下に計算される最大損失額というのは、外貨建保険のリスクを分かりやすく伝えるための情報の一つだと思いますが、いかがでしょうか。

私自身は、このような金融の数理モデルの専門家ではないので、今回お示しした数字というのは、単純なモデルに基づくものです。しかし、このような保険を開発、販売している保険会社や金融機関には、自社のリスクを管理するための精緻なモデルがあるので、これを顧客の情報提供のためにも役立てて欲しいと思うところです

 

さて、この次に外貨建保険と類似の金融商品を取り上げて比較する予定でしたが、リスクの見える化のパートが少々長くなってしまったので、あともう一回、外貨建保険について回を設けたいと思います。

このブログが皆さんのお役に立てば幸いです。ご意見、ご質問などがありましたら、こちらのお問合せページからお願いいたします。

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