投資信託の見直しをしよう!

みなさん、こんにちは。

2月の終わりにブログを更新してから、しばらく間が空いてしまいました。3月中は、新年度から始まる新規業務の準備や家計相談の件数がいつもより多かったため、ブログの更新がおろそかになってしまいましたが、新規業務の方も何とかスタートしましたので、またブログを通して、皆さんのお役に立つ情報を発信していきます!

さて、久しぶりのブログのテーマは、「投資信託の見直しをしよう!」です。

現在、積み立て投資を始めている皆さんには、「積み立て投資を始めたら、価格が上がろうが、下がろうが、同じようにずっと継続することが重要です」とアドバイスをしています。ちょっと極端に言うと、「自動的に銀行口座から積み立て資金が引き落とされるようにしてしまえば、後はほったらかしでいいですよ」ということです。毎日株価や投信の基準価格を見て一喜一憂する必要はありません。

しかし、本当にほったらかしで良いのかというと、そういう訳でもありません。例えば、国内外の株式と債券の投資信託に分散して投資している場合などは、それぞれの資産種別の配分比率が当初目標としていたものからずれてくるので、これを目標の配分比率に調整するための、所謂リバランスという作業が必要になります。

あるいは、最近は投資信託の手数料が依然と比べてかなり引き下げられてきており、同じ投資対象の投資信託でも、手数料が異なるものが併存している状況です。そうすると、自分の保有している投資信託について、同一の投資対象で手数料がより低いものがあれば、乗り換えた方が良いかもしれません。今回は、この手数料に着目した見直しについて、お話ししたいと思います。

 

10年前に始めた積み立て投資が…

最近私が相談を受けたAさんは、10年ほど前に投資信託の積み立てを始めました。積み立てしている投資信託は先進国の株式に投資するもので、「MSCIコクサイインデックス(円換算ベース)」という指数に連動するインデックスファンドです。投資の成果は、リーマンショック後の世界的な株式市場の回復のおかげで、毎月1万円の積み立てで、10年間で120万円の投資元本が219万円程になっていました。

Aさんは、これからも積み立て投資を継続していくつもりのようです。最初にお話しした通り、積み立て投資を長く継続することは資産形成をする上で大変重要なのですが、Aさんが積み立てをしている投資信託で一つ気になることがありました。それは、手数料が高いことです。運用管理費用(信託報酬)と呼ばれる手数料が、年間で0.65%控除され、運用会社、販売金融機関、信託銀行に払われているのです。

Aさんが積み立て投資を始めた10年前は、その位の運用管理費用は普通か、むしろ低い部類でしたが、最近では運用管理費用の引き下げ競争もあり、Aさんが積み立て投資を行っている投資信託と同じ投資対象で、運用管理費用が年間0.12%という投資信託があるのです。この投資信託は、1年ほど前に販売開始されたものですが、Aさんはご存じなかったようです。

運用管理費用控除前の平均リターンが7%だとすると、Aさんが保有しているXファンドの実質的な平均リターンは6.35%で、最近出たYファンドの方は6.88%となり、年間で0.53%の差がつくことになります。さらに、長期においてはこれが複利で効いてくるので、10年間毎月1万円積み立てた場合の投資残高は、ファンドXが167万円、ファンドYが172万と5万円の差がつくことになります。20年間だと、その差は31万円になります(右の表を参照)。

また、MSCIコクサイ・インデックスに連動するインデックスファンドは、モーニングスター社のサイトで調べたところ現在27銘柄ありますが、過去3年間のデータがとれる21銘柄について見ると、運用管理費用と3年間の平均リターン(年率)の間には、明確な相関があることが右のグラフから分かります。

 

 

 

運用管理費用による乗り換えのポイント

Aさんは、早速積み立て投資する投資信託をYファンドに切り替えましたが、それでは、これまで積み立てたXファンドの219万円はどうすればよいでしょうか。こちらの方は、単純にYファンドに乗り換えれば良いという訳ではありません。乗り換えを検討する場合、以下の点を考慮しなければなりません。

  1. Aさんは、源泉徴収によって税金をとられる特定口座で積み立てを行っていました。したがって、乗り換えのために売却してしまうと、売却益に対して20.315%の税金が控除されてしまい、その分乗り換え後の運用における複利の効果が低くなってしまう。
  2. NISA口座で積み立てをしていた場合、乗り換えのために売却すると乗り換え後の利益については非課税とならない、あるいはNISA口座に乗り換えをする場合、NISA口座の枠を使ってしまうことになる。または、乗り換えの金額がNISAの限度枠120万円を超えている場合は、超えた部分は課税口座で保有しなければならない。
  3. もし、Yファンドに乗り換え後に、Xファンドの運用管理費用がYファンドと同水準に引き下げられた場合、1の理由によって乗り換えたことが仇となってしまう。

それでは、1~3の中で1についての影響を実例を用いて見てみましょう。

下の表は、ファンドXからファンドYに乗り換えた場合と、そのままファンドXで運用した場合の5~20年後における手取り額の差を示しています。ケースAは、先に紹介したAさんのケースで、ケースBとケースCは現時点の含み益がケースAと比べて少ないケースとなっています。

Aさんのように含み益が大きい場合(ケースA)、乗り換え時の売却によって控除される税金が多くなるため複利効果が低減し、乗り換えのメリットが小さくなってしまいます。乗り換えてからの保有期間が5年以内の場合は、乗り換えない方が良いという結果になっています。

含み益が少ない場合(ケースB,C)では、乗り換えのメリットは相対的に大きくなります。このように、乗り換えのメリットは、(1)現在保有している投資信託の含み益、(2)現在保有している投資信託と乗り換え先の投資信託の運用管理費用の差、(3)乗り換え後どの位運用を継続するのか、等を総合的に検討する必要があります。

業界は顧客のために適切な対応と情報提供を

Aさんは、結局新規の積み立て分は、早速運用管理費用の安いYファンドに乗り換えましたが、これまで積み立てた分については、いろいろ悩んだ末、Xファンドをそのまま保有することにしました。

Xファンドを継続保有することにした理由は、(1)Yファンドに乗り換えても、10年後のメリットは1.3万円とそれほど大きくない、(2)もし、Yファンドに乗り換えた後にXファンドが運用管理費用を下げると、乗り換えした場合に税金を控除されることによる複利効果の低減のために、乗り換えたことがデメリットになる可能性がある、という点です。

運用管理費用が安くなってきたことは、投資信託によって資産形成をしようという一般生活者にとっては好ましい事であるのですが、一方で昔の運用管理費用が高い投資信託を保有している人にとっては、それを乗り換えるべきか否かの判断は、不確定要素もあり結構難しいものであると言えます。

このように、投資対象が同一で運用管理費用が異なる投資信託が並存している状況の中、各顧客にとって最善の判断ができるようにするための情報提供や対応が業界に求められるのではないでしょうか。具体的には、以下の3点です。

  1. 投資対象が同一の投資信託を2銘柄以上販売している金融機関は、顧客が運用管理費用が高い方の投資信託を積み立て、保有している場合には、安い投資信託がある旨の情報を提供するべきでしょう。Aさんの例のように、運用管理費用が安い投資信託が販売されているのに、そのことを知らせずに、運用管理費用の高い方の積み立てを継続させている状況は、顧客本位とは言えないのではないでしょうか。
  2. 運用管理費用の高い投資信託を保有している顧客が、安いものに乗り換えるか否かの判断をするための指針のようなものを公表する。乗り換えにあたっては、どのようなリスクがあり、それが発生する可能性がどの程度なのか等。例えば、各投資信託における運用管理費用の引き下げの蓋然性や、投資対象同一の投資信託を乗り換える際の源泉税繰り延べのような税制改正の可能性など。
  3. 乗り換えをする場合、現状では、保有している投資信託の売却と乗り換え先の投資信託の購入の注文を同時に入れる方法が、売却と購入のタイムラグによる市場変動のリスクを回避する方法として適していると思われます。しかし、売却による金額が確定しないと購入の注文を入れることができない(即ち1日以上のタイムラグが発生する)とか、金額指定で売却する場合は、指定金額の9割分しか購入の注文ができないとか、あまり利便性が高くないようです。一部の投資信託では、スイッチング注文と言って売却と購入を同時に注文できるケースもあるようなので、このような仕組みを投資対象同一の投資信託同士の売買にも使えるようにしたらどうでしょう。

監督当局もこの問題についての業界の対応状況について、しっかりとモニターして欲しいと思います。

このブログが皆さんのお役に立てば幸いです。ご意見、ご質問などがありましたら、こちらのお問合せページからお願いいたします。

 

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