年末調整の仕組み(後編)
年末調整の仕組み(前編)では、年末調整の基本的な仕組み、すなわち、給与や賞与から毎回天引きされる源泉徴収は仮払いで、年間収入が確定する年末に所得税額を再計算して、仮払いの源泉徴収との差額を清算する、ということを解説しました。
その際に、年末調整では、生命保険料控除や個人型確定拠出年金(イデコ)の掛金控除による還付も受けられるということを軽く触れましたが、今回は、これらの控除について解説したいと思います。
1.生命保険料控除
生命保険の契約者は、支払った保険料の一定額の所得控除を受けることができます。生命保険を検討する時に、「生命保険料控除が受けられるのでおトクですよ」とセールストークを聞いたことがあるかもしれませんが、実際にいくらくらいおトクなのか、分かりますか?これから、確認してみましょう。
生命保険料控除は、契約した時期によって控除額が異なっています。今回は、平成24年1月1日以後に契約した生命保険(新契約)の控除額について見てみます。それより前の契約(旧契約)については、詳しくは国税庁のホームページで確認してください。
下の表は、新契約の控除額を示したものです(出所:国税庁ホームページ)。左側の支払い保険料に応じて控除額が定められています。例えば、月額保険料が1万円の終身保険だと、年間保険料は12万円なので控除額は上限の4万円ということになります。
さて、ここまでは表を見れば簡単に分かりますが、問題は、税金がいくら還付になるかということです。
もしかしたら、4万円が還付されると思っている方はいないでしょうか?だって、控除額が4万円と言われれば、そう考えても不思議はありませんよね…..
残念ながら、国はそれほど気前良くはありません。最初に言いましたが、生命保険料控除は所得控除なのです。ということは、課税される所得金額から4万円が控除されるということなので、還付される金額は、4万円に税率を乗じた額になるのです。
はい、そこで前編でお話しした、皆さん各自の所得税率を思い出してください。税率が10%であれば4千円、20%であれば8千円還付ということになります。ちなみに、これに加えて住民税の還付もあります。住民税の所得控除の上限は2万8千円なので、税率10%(所得に関わらず一定)を乗ずると2800円還付ということになります。
そうすると、所得税率10%の人の場合だと、年間12万円の保険料に対して、所得税と住民税を合わせて6800円還付です。仮に保険料が倍の24万円になっても、還付の金額は変わりません。
ちなみに、所得税率が10%の人というのは、単身世帯の方や共働きで扶養控除の対象となる配偶者や子がいない世帯の夫あるいは妻のケースで、年収が450万円~650万円程度の人が該当します。ただし、これはおおよその目安ですので、前編で説明した方法でしっかり確認しておいてくださいね。
2.個人型確定拠出年金の掛金控除
次に、個人型確定拠出年金(イデコ)を見てみましょう。イデコの場合も、毎月の掛金が所得控除になりますが、生命保険料控除と違うのは、掛金の全額が所得控除となることです(但し、職業や勤務先の企業年金の有無等で掛金に上限が定められています)。
仮に、所得税率10%の人が毎月2万円の掛金を拠出した場合には、年間の掛金合計24万円に対して、所得税と住民税合わせて4.8万円(=24万円×20%)の還付を受けることになるのです。生命保険とイデコを単純に比べることはできませんが、還付の金額だけをみるとイデコの方がかなり有利ですね。
また、還付の率を取り上げて、イデコの事を「利回り20%の超高利回り商品」のように紹介されるケースを見かけますが、これは誤解を招くので注意してください。20%というのは、掛金を払った年に限ったことで、20~30年という長期間においては還付による効果は薄まってしまいます。
例えば、還付の分実際の掛金が安くなるという風に考えてみましょう。すると、毎月1.6万円[=(24-4.8)÷12]を拠出すると、1年間で24万円貯蓄できる(利回りはゼロ)ことになり、これが20年間で480万円、30年間で720万円になります。これを利回りに換算すると、それぞれ2.1%と1.4%になります。
実際には、元本確保型商品の定期預金で運用すれば、わずかですが利息が付くので、利回りはもう少し高くなります。しかし、イデコのメリットは掛金の所得控除だけでなく、運用益が非課税になるということもあるので、リスクはありますが長期投資によって資産を大きく増やすという選択肢も検討して欲しいと思います。
3.住宅ローン控除は税額控除
1と2では、生命保険料控除とイデコの掛金控除を取り上げ、所得控除による還付の仕組みを説明をしました。
それでは、住宅ローン控除(正式名:住宅借入金等特別控除)はどうでしょう。住宅ローン控除は、所得控除ではなく税額控除になります。住宅ローンの控除額は、ローンの残高に1%を乗じた金額なので(上限あり)、ローンの残高が2000万円の場合は、控除額が20万円になります。
ここで、控除額の20万円が還付されることになります。つまり、各自の税率に関わらず、控除額の分所得税が安くなります。このような控除の方法を、税額控除といいます。所得控除と税額控除の違いをきちんを理解しておきましょう。
4.まとめ
以上、前編と後編の2回にわたって、年末調整の仕組みについて解説しました。年末調整では、還付を受けたり、逆に徴収されたりしますが、その金額の内訳について確認しておくことをお勧めします。また、今回取り上げた控除以外にも、様々な控除があります。このような控除を受けようとする場合には、具体的な金額等のメリットをしっかり理解しておくことが必要でしょう。
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