結構複雑な加給年金のしくみ
今年の10月に社労士として開業登録をしました。まずは、FPとより関係の深い年金分野に力を入れたいと考えていて、年金事務所や街角の年金相談センターで年金相談員の仕事をするために、社労士会の研修を受けています。
研修を受けていると、まだまだ自分の知識が足りないことを痛感してしまいます。ということで、自分の年金知識の向上も目指して、このブログでも年金財政や制度改革のことだけではなく、年金の受給に関することも取り上げていきたいと思います。
今回は、老齢厚生年金の配偶者加給年金についてです。加給年金というと子に対するものもありますが、今回のブログでは、加給年金は配偶者加給年金のことであると、ご了承ください。
さて、加給年金というと、最近は厚生年金を繰下げて受給する場合の注意点として、大体以下のような感じで解説されることが多いと思います。
繰り下げ受給には注意点もあります。例えば年金の家族手当ともいえる「加給年金」。厚生年金の被保険者期間が20年以上ある夫が原則65歳になったとき、一定条件の妻がいれば、妻が65歳になるまで支給されるものです。金額は夫の生年月日で変わりますが、多いのは年38万9800円です。この加給年金が、夫が繰り下げ受給をするともらえなくなります。
この説明の中で気になるのは、以下の点です。
- 説明の中の夫と妻が入れ替わるケースでも、妻に加給年金が支給される。
- 「一定条件の妻」の一定条件が明確に示されていない。
2つ目の一定条件とは、どういう条件なのでしょうか。上の解説で使われている夫と妻の関係に基づいて説明すると以下のようになります(もちろん、夫と妻を入れ替えても成立します)。
- 夫が65歳になった時に、夫によって生計を維持されている65歳未満の妻がいること。
- ただし、妻が加入期間20年以上(共済組合員期間を含む)の老齢厚生年金、または障害年金を受けられる間は、加給年金は支給停止となる。
ご覧の通り、文章で書くとそれほど長くはないのですが、これを実際のケースにあてはめようとすると、いろいろややこしくなります(そういうこともあり、メディア等での解説では、単に一定条件と言っているのでしょう)。
1では、「生計を維持されている」というところがポイントです。これは、原則として、同居していることと、妻の前年の年収が850万円未満(または所得が655万5千円未満)の2つの要件を満たしていることを言います。ただし、別居していても認められるケースや、収入が減少する見込みのある場合は認められるケースもあるので、注意が必要です。
また、2については、妻の働き方によって支給停止となるケースがあるということです。特に、現在は、支給開始年齢を65歳に引き上げる過渡期であり、65歳前から特別支給の老齢厚生年金を受給する方が多いので、やはり注意が必要です。
今回は、より多くの方に関連してくると思われる2の条件について、具体的な事例を2つ挙げて解説したいと思います。
下の事例1と事例2を見て下さい。年齢構成が同じ夫婦で妻の働き方が異なる事例を比較しています。妻には61歳から報酬比例部分の厚生年金が支給されますが、その働き方によって、夫に支給される加給年金に違いが出ることがお分かりになるでしょうか。
もし、事例1の夫が、加給年金を目当てに厚生年金を繰下げしなかったとしたら、ちょっと思惑と違ったと後悔するかもしれませんね。この場合、加給年金が支給停止にならないようにするには、妻が60歳前に仕事をやめるか、厚生年金の加入対象にならないような短時間労働に変わる必要があります。あるいは、雇用保険の失業給付を受けたり、収入がある程度多いと、年金が全額停止になることがありますが、この場合は加給年金が支給されます。ホント、いろいろややこしいですよね!
いずれにせよ、働いて稼ぐ力が十分あるのに、年40万円弱の加給年金を目当てに就業を抑制することは、どうなんでしょうか。働かずに加給年金の40万をもらうのと(加給年金を受けるのは夫ですが)、働いて給料を150万円稼ぐのとでは、どちらが良いでしょうか。また、経済的な観点だけでなく、長く働く方が健康を維持できるという説もあるようです。よーく考えて決めて下さいね。
このように加給年金は、夫婦の誕生日、年齢差、働き方などによっていろいろな支給パターンがあり、実は結構複雑です。昭和41年4月2日以降生まれの女性が65歳になる2031年度以降は、誕生日に関わらずすべての人の支給開始年齢が65歳になるので、もっと分かりやすくなると思いますが、当分は、加給年金の受給と繰下げを天秤にかけて検討する場合には、専門家と確認することをお薦めします。
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