金融審議会「市場ワーキンググループ」(第16回)を傍聴しまし
11月5日に金融庁で開催された、市場ワーキンググループ(第16回)を傍聴しました。
議題は、「高齢社会における金融サービスのあり方について」です。
以下に気になったポイントをまとめましたが、議論のすべては網羅しておらず、私が委員の方の発言を聞き間違えている可能性もあるので、詳細は下のリンクにある資料と、後日公表される議事録でご確認ください。
金融庁ホームページ:市場ワーキンググループ(第16回)資料
1.金融機関が提供する多様な高齢者向けサービス
まずは、金融業界の各業態の代表から、それぞれで提供している高齢者向けサービスについて説明がありました。説明をした金融機関は以下の6社です。
- みずほ銀行
- 三井住友信託銀行
- 第一生命
- 大和証券
- 野村アセットマネジメント
- 城南信用金庫
委員の皆さんから出た意見をまとめると、以下のような感じです。
- 各社がいろんな高齢者向けサービスを提供していることは知らなかった。
- サービスの内容やコストを金融機関の間で比較できるように、サービスの名称を統一するなどの工夫が必要では。
- 他の金融商品や金融サービスの付帯サービスとして提供されているものは、費用が分かりずらい。その点、城南信金の「高齢者向け総合サポートサービス」は、費用が明示されていて良い。
2.トンチン保険に注目が…
第一生命の資料の中で、トンチン保険が紹介されていました(資料5ページ)。トンチン保険とは、例えば、50歳から70歳まで保険料を払うと、70歳以降一定額の年金が終身で支給されるというものです。ただし、被保険者が死亡したら年金の支給は終わりで、遺族に支払われることもありません。したがって、仮に71歳で死亡すると、支給された年金額が支払った保険料を大きく下回ることになってしまいます。逆に、90歳を超えて長生きする場合には、「得する」という訳です。
このトンチン保険について、ある委員から、「長生きリスクに備えるための民間保険として重要だ。保険なので、経済的な損得という尺度で見るべきものではないということを、顧客に理解してもらう必要がある」という、ポジティブな意見が出ました。それに、追随して、他の数名の委員の方からも、同様な反応がありました。その中には、日頃、金融商品については厳しく意見するセゾン投信の中野社長も含まれていました。
私は、このような委員の皆さんのご意見にちょっと違和感を感じました。
トンチン保険は、確かに長生きリスクに備えるための有効な手段かもしれませんが、それは、あくまで選択肢の一つでしかありません。上の例で言うと、70歳から毎年60万円の年金を受け取るトンチン保険の保険料総額は、男性で1200万円、女性で1500万円程と、かなり高額になります。
それならば、トンチン保険の保険料を払う代わりに、それを65歳から70歳までの生活費に充てて、公的年金の繰下げによる増額によって長生きリスクに備えることも選択肢の一つです。
そんなことを考えていたら、最後の方で発言した竹川さんは、「トンチン年金は長生きリスクに備えるための唯一の選択肢ではありません。公的年金、企業年金、民間の商品をトータルで検討することが重要です。」と強調していらっしゃいました。
「さすが、竹川さん」と、心の中で拍手を送らせて頂きました。
しかし、保険業界の代表の方からは、昨今、保険商品の販売にあたっては、類似の金融商品との比較を示すように、「顧客本位の業務運営に関する原則」で求められていることについて、「保険商品と金融商品は、その目的が異なるので、そのキャッシュバリュー(経済的な価値ということでしょうか)だけに注目すると、保険が備えている保障機能の重要性を見落すリスクがある」というようなコメントが出ました。
しかし、この意見には疑問を感じます。なぜなら、変額保険のように、掛け捨ての死亡保障と投資信託の積み立てのパッケージ商品のようなものは、パッケージしないで、それぞれを分けて契約した場合と比較すると、死亡保障と投信による資産形成のいずれについても、経済的価値は劣るものであるからです。ご興味のある方は、下の関連ブログをご覧ください。
関連ブログのリンク:ユニットリンクを検討している方へ
また、この生保業界のコメントは、竹川さんのトンチン保険についてのコメントに対する反論のようにも聞こえました。金融機関が自らの意思で採択している「顧客本位の業務運営に関する原則」では、金融商品と保険商品のいずれにも、「分かりやすい情報の提供」が求められています。今後も、この課題についての動向には注視していきたいと思います。
3.高齢者の資産運用は元本確保・元本保証?
セゾン投信の中野社長から、野村アセットマネジメントの資料6~7ページについて意見がありました。
そのページの内容は、高齢者に対するアンケート調査によると、資産運用は、元本保証や元本確保しながら収益を受取る商品に対するニーズが高いので、そのような顧客のために、損失を限定した仕組みを持つ投信や安定運用しながら年金の支払いの無い奇数月に分配金を支払う、隔月分配型を開発したことをアピールしたものです。
それに対して中野社長は、「高齢期の資産運用は元本保証や元本確保が前提ということが既成概念化していないか。そのようなものにとらわれず、投資の意義をしっかりと高齢者に説明して、高齢者の保有する資金を、世の中の経済活動のために回すようにすることが大事ではないか」と意見していました。
この市場WGでも、投資教育の重要性が言われていますが、それは高齢者にも当てはまることではないでしょうか。また、投資教育で重要なのは、小難しいリスクとかの話よりも、まずは、自分が投じたお金が誰によって、どのように使われているのかを理解することではないかと思います。
また、前にもこのブログで書きましたが、高齢者向けの金融商品というものは必要ありません。金融機関は、取り崩しのサービスや、公的年金の活用も選択肢として情報提供するようなことが必要でしょう。
関連ブログのリンク:シニア向けに必要な金融サービスとは?
4.おまけ
下のスライドは、第一生命が提出した資料の6ページです。このスライドの中に、間違いが一つあります。どの箇所かわかりますか?
答えは、以下のコラムを読んでください。
「予防医療で医療費を削減できる」は間違いだ(東洋経済オンライン)
分かりましたか?正解は、スライドの上の囲みの中の、「社会保障給付の抑制にも貢献」というところですね。健康診断を受けることは良いことだと思いますが、それによって、医療費は削減できないという事実は理解しておく必要があるでしょう。
以上、第16回市場WGの傍聴メモでした。