銀行窓口における変額保険販売の問題点

日経電子版の記事より

金融機関「顧客重視」で評価、三井住友トラストが新会社 :日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO24488290R11C17A2EE9000/

設立される新会社は、地銀、信金などの地域金融機関に対して、「顧客本位の業務運営」に即した金融商品の販売方法、体制をアドバイスする、ということのようです。いくら中小の金融機関とは言っても、顧客のためにどうすればよいかということを、外部からのアドバイスに頼るというのは、少々首を傾げたくなりますが、まぁ、仕方がないのでしょうか。

ところで、私が注目しているのは「投信・保険ビジネス総合研究所」という新会社の社名です。投資信託と保険のビジネスを総合的に研究する、ということなら、現在銀行窓口で販売されている保険商品についても、その販売における問題点の改善に役立つのではないかと期待しています。以下に、変額保険(有期型)という保険商品を取り上げ、銀行窓販における問題点の一例を示したいと思います。

変額保険(有期型)の問題点
ここで取り上げる変額保険(有期型)とは、死亡保障と資産形成の両方を兼ね備えた商品として販売されているもので、銀行の窓口でも取り扱いが増えているようです。保険会社A社が提供している変額保険(有期型)の契約例を見てみましょう。

A社の変額保険(有期型)の契約例

  • 契約者: 30歳男性
  • 保険期間・保険料払込期間: 30年満了
  • 基本保険金額:901万円
  • 月払保険料:2万円

簡単に商品内容を説明すると、満期(60歳)まで保険料を毎月2万円払うと、一定の手数料、費用を控除した金額が投資信託によって運用され、その運用成績に応じて満期保険金が支払われます。万一、満期前に死亡した場合は死亡保険金が支払われ、死亡保険金も運用成績に応じた金額になりますが、基本保険金額(901万円)を下回ることはありません。

さて、この変額保険の問題点を明らかにするために、以下のような商品の組合せを代替プランとして考えます。

代替プラン(死亡定期保険と投信積立の組合せ)

死亡定期保険

  • 契約者:30歳男性
  • 保険期間:30年
  • 死亡保険金:900万円
  • 月払保険料:2192円

投資信託の積立

  • 毎月17808円で投資信託の積立を行う。

この代替プランの月々の費用は、変額保険と同じ2万円です。

変額保険と代替プランの比較

変額保険と代替プランは、いずれも毎月2万円の同じ費用がかかるものですが、死亡時や満期時に支払われる金額がどのように異なるものかを比較してみます。投資信託による運用の部分は、変額保険と代替プランで差が出ないと仮定して、両者とも利回り3%としています。

満期まで生存した場合

契約者が生存したまま満期(60歳)を迎えた場合に支払われる金額を比較したグラフです。グラフが見づらくて申し訳ありませんが、赤が変額保険青が代替プラン緑が支払い保険料、掛金の累計です。60歳までのいずれの時点をとっても、代替プランが変額保険を上回っており、満期時ではその差が137万円程になります。

 

 

満期前に死亡した場合

満期前に死亡した場合は、変額保険と代替プランの差がより顕著になります。変額保険(赤線)は、死亡年齢に関わらず基本保険金額の901万円が支払われるのに対して、代替プラン(青線)の方は死亡定期の保険金900万円に加えて、投信の積み立て部分があるので、50歳で死亡した場合は1485万円、60歳直前で死亡した場合は1938万円と変額保険を大きく上回る金額を遺族に残すことができます。

変額保険の商品説明の際に、このような比較をして見せれば、多くの人が代替プランを選択するのではないかと思いますが、いかがでしょうか。保険商品しか提供できない保険会社の営業員や乗合代理店では、やむを得ないと理解できる部分もありますが、代替プランに必要な商品も扱っている銀行の窓口で、このような説明をしないのは顧客本位と言えないのではないでしょうか。今回取り上げた変額保険以外の他の貯蓄性保険でも、同じような問題は存在しています。また、保険商品に関してはまだまだ手数料等不透明な部分が多く、顧客の利便性を損なっていると思います。今回設立された投信・保険ビジネス総合研究所には、その名の通り、投信と保険を横断的に捉えたアドバイスを金融機関に提供していただくことを期待したいと思います。

 

 

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