貯蓄型の医療保険の問題点
日経電子版の記事より
保険料が全額戻ってくる医療保険 損得はいかに : NIKKEI STYLE https://style.nikkei.com/article/DGXMZO26179570W8A120C1PPE000?channel=DF280120166591
どうしても「掛捨ての保険はもったいない」と感じる人が多いようです。記事で紹介されているメディケア生命のメディフィットリターンという終身型の医療保険は、そのような人のために販売されているものですが、現在の低金利下においては、貯蓄型の保険はお勧めできません。
以前にこのブログで、死亡保障の終身保険と掛け捨ての定期保険を比較(ブログタイトル:終身保険の是非について)をしましたが、それと同様な方法でこの医療保険を検討してみます。
■貯蓄型保険 vs 代替プラン
貯蓄型保険と掛け捨て保険を比較する場合には、保険料を単純に比べてみても意味はありません。今回の新聞記事でも述べられている通り、保険料は貯蓄型保険の方が高いのは当たり前だからです。そこで、掛け捨て保険と貯蓄を組合わせた「代替プラン」と貯蓄型保険を比較して、どちらが有利か検討します。
貯蓄型と代替プランを比較した下の表を見て下さい。いずれのプランも毎月の費用は3705円と同額です(保険料は記事で使用されているもの)。ここで、60歳まで元気で保険金の支払いが無かった場合と、60歳までに病気による入院で50万円の保険金が支払われた場合の2通りについて見てみます。
- 60歳までに保険給付が無い場合
貯蓄型保険では、保険料の支払総額である133万円の還付を受けられます。これに対して、代替プランでは積み立て貯蓄が手元に残ります。積み立て貯蓄の額は、運用利回りによりますが、利回りが0%であれば78万円と貯蓄型保険の還付金を55万円下回りますが、利回りが3.5%であれば大体還付金と同じくらいの金額になります。
また、もう一つ気を付けないといけないのは、60歳以降も保険に入り続ける場合です。いずれのプランでも保険料は変わらないので、掛け捨て型の方が安くなります。その差額は、20年間で52万円程になるので、代替プランの利回りが0%の場合であっても、還付金との差額を埋め合わせることができます。 - 60歳までに50万円の保険給付を受けた場合
還付金は133万円から保険給付の額を差し引いた83万円となり、代替プランの利回り0%のケースとあまり変わらない金額になります。
そして、保険を継続する場合の保険料の差は、保険給付を受けない場合の比較と同じく、代替プランの方が有利になります。
以上の比較から言えることは次のとおりです。
- 貯蓄型が有利となるのは、60歳で還付金をもらい保険を継続しないケースでしょう。しかし、病気のリスクが高まる高齢期において医療保険が不要と考える方なら、そもそも30歳から医療保険に入る必要はないはずです。
- 病気入院等で保険金が給付されたり、終身で医療保険に加入する場合であれば、代替プランの方が良いと思います。
- したがって、「保険料が掛け捨てだから損」、というのは誤解です。掛け捨て型と貯蓄型を比較する際には、今回紹介した掛捨て保険と積み立て貯蓄を組合わせた代替プランを使うと良いでしょう。
貯蓄型保険 |
代替プラン (掛け捨て保険と積み立て貯蓄の組合せ) |
|
毎月の費用 | ・月額保険料 3705円 | ・掛け捨て保険(メディフィットA)・・・月額保険料 1544円
・積み立て貯蓄 ・・・毎月2161円 |
60歳までに保険給付無し | ・還付金133万円
・60歳以降の保険料・・・3705円 |
・積み立て貯蓄・・・78万円(利回り0%)~ 137万円(利回り3.5%)
・60歳以降の保険料・・・1544円 |
60歳までに50万円の保険給付 | ・還付金83万円
・60歳以降の保険料・・・3705円 |
・積み立て貯蓄・・・78万円(利回り0%)~ 137万円(利回り3.5%)
・ 60歳以降の保険料・・・1544円 |
■もう一つの問題点
メディフィットリターンにはもう一つ問題点があります。
パンフレットを見ると、プランの例として日額5000円と日額10000万円の2通りが示されています。この二つのプランの違いは、保険給付の額が日額に応じて変わるということです。つまり、日額10000万円のプランは日額5000円のプランの2倍の保険金が支払われるというものです。
ここで、二つのプランの保険料を比較してみましょう。
日額5000円プラン | 日額10000円プラン | |
30歳男性 | 3665円 | 7330円 |
10000円プランの保険料は5000円プランの保険料のちょうど2倍になってます。これは当たり前のように見えますが、実はこれが問題なのです。
保険料は、保険金の支払いに充てられる部分と保険会社の経費に充てられる部分に分けることができます。前者が純保険料、後者が付加保険料と呼ばれています。この保険料の内訳は通常公表されていませんが、仮に5000円プランの純保険料を2500円とすると二つのプランの保険料は以下のように比較できます。
日額5000円プラン | 日額10000円プラン | |||
30歳男性 | 純保険料 | 付加保険料 | 純保険料 | 付加保険料 |
2500円 | 1165円 | 5000円 | 2330円 |
純保険料については、保険金に比例して増減するので問題ありません。しかし、付加保険料はどうでしょう?
付加保険料は、先程述べた通り保険会社の経費に充てられるものです。保険会社の経費とは、社員の給料、代理店への手数料、保険契約を維持するための事務コストなどが考えられます。この中で、事務コストは保険金の額に関わらず一定ではないでしょうか。したがって、10000円プランの付加保険料が5000円プランの2倍というのは変ですよね。10000円プランの保険料は、5000円プランの保険料の2倍より安くなるはずです。
このように、保険料体系が保険金額に比例する形で設定されているケースは他の保険商品でもあります。皆さんも気を付けて見て下さいね。