外貨建終身保険の見える化(前半)
先日このブログで、「外貨での運用について考える」というテーマで、米ドルのMMFによる外貨の運用のお話をしましたが、今回は、外貨建の運用商品として人気の高い外貨建終身保険を取り上げてみたいと思います。
1.金融庁が指摘する外貨建終身保険の問題点
金融庁が9月26日に公表した金融行政レポート「変革期における金融サービスの向上に向けて」において、外貨建保険について以下のように指摘がされています。
また、金融機関代理店において、投資信託等と並び販売されている貯蓄性保険、特に現在販売額が増加傾向にある外貨建保険について、・・・(中略)・・・以下のように商品内容の情報提供が分かりやすく行われていないことを確認した
・保険加入時の重要な判断材料となる為替変動等の各種リスク、運用利回りやコスト等の記載が募集資料上点在するなど分かりにくく、為替変動による元本割れ等に係る苦情も発生している。
・定額の外貨建保険等の「積立利率」は、定義が商品によって異なるものの、募集資料でその定義を明確に説明している社はほとんどない。したがって、これを顧客が実質的な利回りと誤認しているおそれもある。(レポートの101~102ページより抜粋。強調は筆者が加えたもの)
ここで指摘されている、「商品内容の情報提供が分かりやすく行われていない」ということについて、外貨建保険の「見える化」のためには、どのような情報提供が必要なのか、見ていきたいと思います。
2.積立利率と実質的な利回りの違い
まずは、2番目のポイントで指摘されている積立利率と実質的な利回りの違いについて説明します。
ある生命保険会社の米ドル建終身保険(平準払い)を例として見てみましょう。
この保険の商品説明資料には、「積立利率年3%を最低保証。さらに運用結果によっては積立利率アップ」と謳われています。円の利率がほぼゼロ%に近い水準であることを考えると、とても魅力的に見えるかもしれません。
一方、説明資料の中には、以下のような説明があります。
払い込みいただいた保険料から、契約の締結・維持に必要な費用を控除した金額が、積立金として将来の保険金などのお支払いに備えて積み立てられます。また、積立金からは、死亡・高度障害保障のための費用などが毎月控除されます。そのため、積立金がそのまま積立利率で運用されるものではありません。
この説明文を図にすると以下のようになります。赤の実線が実質的な利回りを表していることが分るでしょうか。商品説明書の中では、返戻率(=解約返戻金÷保険料)は示されていますが、実質的な利回りは示されていません。
それでは、実質的な利回りはどの位でしょうか。具体的な契約例を用いて説明します。
契約例:35歳男性、60歳払込満了、保険金額10万ドル、月払保険料184.4ドル
下の左側の表は、上の契約例における60歳時点での解約返戻金を基に実質利回りを計算したものです。積立利率は毎月見直しされるので、3.0%、3.5%、4.0%の三通りで解約返戻金を計算しています。商品説明書では、返戻率は示されているのですが、実質利回りは示されていません。ご覧の通り、実質利回りは積立利率と比べると、2.4%~2.7%程低くなっています。
一方、右側の表は、65歳時の解約返戻金を基に、60歳時から65歳時の実質利回りを計算したものです。利回りの水準はかなり上がっていますね。それでも、積立利率と比べると1%弱低いことには留意が必要でしょう。
一般的に、払込期間中は死亡保障の費用が高いので、実質利回りが低くなるようです。払込期間を短くすると、月払保険料は増えますが、保険料の総額は少なくなり、実質利回りは高くなります。
外国債券や外貨MMFといった、他の金融商品との比較をしやすくするためにも、返戻率だけでなく、実質利回りも確認した方が良いでしょう。
さて、金融庁が外貨建保険に必要な情報提供として挙げている、為替リスクの説明については、次回のブログでお話ししたいと思います。
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