株式の大衆化で新たな繁栄を~松下幸之助
5月19日(日)にマネックス証券主催の「マネックス・アクティビスト・フォーラム」というイベントに参加しました。
このフォーラムは、個人投資家が株主としての権利を十分に行使する、あるいは行使できるようにすることによって、日本の上場企業の企業価値の向上と株価の上昇に繋がるように、個人投資家に対する啓蒙活動や情報提供をしていこうという趣旨で立ち上げられたものです。
イベントでは、本フォーラムの賛同者として、レオス・キャピタルワークスの藤野さんが講演をされたのですが、その中でお話しされた、松下幸之助翁の「株式の大衆化で新たな繁栄を」という論文について、紹介したいと思います。
松下翁と言えば、パナソニックの創業者であり、「経営の神様」と呼ばれていることは有名ですが、そのようなお方が、株式投資のあり方について論文を書かれていたとは知りませんでした。
論文は10ページ程度の短いものですが、そこに書かれている一言一句すべてが私の心に刺さるもので、50年余り前に書かれた論文の提言は、今でもなお当てはまることだと感じました。
それでは、論文の抜粋を見ながら、個人投資家の株式投資のあり方について考えてみたいと思います。
論文の書かれた背景
論文の冒頭では、それが書かれた背景、松下翁の問題意識について書かれています。それを要約すると以下のようになります。
戦後、経済民主化政策によって、財閥が解体されるなど、株式が一般国民の手で所有されることが多くなり、資本の民主化が進んできたが、ここにきて個人株主を軽視する風潮が出てきて、多くの会社が株主の安定化ということで、株式を個人から特定の法人のほうへ集めようとしている。このように、資本が一部に偏在してしまうことは資本主義の退歩している姿と考えられる。
松下翁は、国民の一人一人が株主として国の産業に参画して、会社の経営を見守り、時には叱咤激励し、その業容の伸展と利益の配当を享受することが、国家国民の繁栄につながるものだと考えました。
政府・経営者・株主・証券会社の責務
そこで、それを実現するために、政府、経営者、株主、証券会社が、それぞれの責務を果たす必要があると論じています。まずは、政府からです。
政府に望みたいことは、政府みずからが、株式の大衆化なり株主尊重の意義というものを正しく認識、評価することである。そして、その上に立ってすべての国民に株式を持つことを積極的に奨励、要望し、それを実現するための具体的な奨励策、優遇策というものを大いに打ち出すことが大事だと思う。・・・(中略)・・・また、一度買った株をできる限り手放さないように株主を指導していくことも大事であろう。
今だと、NISAがこれに沿った制度ということになるでしょうか。また、政府が検討しているという売買益や配当にする増税に関しては、長期保有が有利となるような制度を検討して欲しいところです。
つぎに、経営者に望みたいことは、その基本の考え方においても実際の態度においても、株主は会社運営に必要な資金を出資してくれている、いわば自分たちのご主人であるということを、決して忘れてはならないということである。つまり、自分の主人である株主の利害に対しては、自分のこと以上に真剣にならなければいけないと思う。
経営者に対しては、株主重視の姿勢を求めながら、一方では株主に対しても、株主としての役割を果たすことを求めています。
株主は、株に投資することによって国家の産業に参画し、その発展に寄与、奉仕するといういわば尊い使命をもっているのである。そして、その使命を全うすることによって正当な利益の配当を受けるわけである。株主は、こういう株主本来の使命というものを正しく自覚、認識して、原則としては、いわば永久投資するという考え方から株を持つことが大事だと思うのである。
「永久投資」!いい響きですね。そして、最後に証券会社の使命として、以下のように述べています。
証券会社の使命というものは、一つには、今ここで述べているような株式の大衆化を実現するために大衆的個人株主をできるだけ多く作っていくことだと思うのである。・・・・(中略)・・・・もちろん、投機的な株主というものを絶無にすることはできないし、絶無にすれば株の相場も立たないので、それも困るが、いずれにしても証券会社は一つの良識をもって、そういう投機的な株主を最小限度にとどめていくことが大事である。
デイトレ、信用取引、HFT(高速取引)など、短期的な値ざや稼ぎをするプレーヤーに関して、市場に流動性を供給する役割を果たしているとして積極的に肯定する意見もありますが、松下翁はこれらは最小限に止めるべきと述べていますね。私もその通りだと思います。どうしても、ギャンブルがやりたければ仮想通貨でやればいいのではないでしょうか。
「一粒で二度おいしい」株式の大衆化
そして、株式の大衆化を進めることによって、一粒で二度おいしい、二重の利益が得られるとしています。
株主は投資した株式から受ける利益だけでなく、投資することによって産業が興隆し社会が繁栄するところから起こる、いわゆる社会共同の繁栄による利益なり恩恵を受けることができる。つまり大衆は、株を持つことによって二重の利益を得られるわけである。
以上、松下翁の論文の要旨を紹介しました。冒頭でも述べた通り、50年余り前の論文で指摘されていることは、今なおもって解決されていません。一人でも多くの方がこの論文を読んで、行動に移すことを願っています。
マネックス証券について
最後に、今回のイベントを開催したマネックス証券について一言。
マネックス証券は、その創業当時においては株式の現物取引しか提供していませんでした。私の記憶が正しければ、信用取引をやらなかったのは、個人投資家が確実に利益を得ることができるのは長期投資しかない、という創業者の松本さんのお考えで、それに対してとても共感しました。
しかし、その後方針転換したのか、信用取引を開始して、FX、CFD、仮想通貨といった投機的な金融商品にサービスを拡大していくのを見て、個人的に少々残念な思いと、業界で生き残るには仕方ないのかという同情のようなものを感じました。
そして、今回のアクティビスト・フォーラムですが、もしかしたら創業時のことを今一度思い出したのかな、と自分勝手に想像しました。今後の動きがちょっと楽しみです。
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