年金国際ランキングの意味
先週、日経の記事で「日本の年金制度は世界の34か国中29位」というものがありました。
やっぱり日本の年金は当てにならないと感じた人も多いのではないでしょうか。
この順位は、海外のコンサルティング会社が毎年公表している年金国際ランキングに基づくものですが、一言でいえば、この年金ランキングで日本の年金制度の問題を論ずることは、あまり意味がありません。
ランキングの特徴については、年金時代のサイトに掲載されている谷内氏のコラムで解説されていますので、下のリンクよりご覧になって下さい。
さて、記事の中では、日本の順位について以下のように解説されています。
「日本の年金は持続性への評価が低く、順位を押し下げた。ランキングをまとめた米コンサルティング会社マーサーは「公的年金の支給開始年齢の引き上げ」などを日本の対策にあげた。」
これについて、ちょっと詳しく解説してみたいと思います。
評価指数は40以上の項目から構成され、それぞれ、「十分制(Adecuacy)」、「持続性(Sustainability)」、「健全性(Integrity)」に分類されています。日本の評価をこの3つの分類別にみると以下のようになっています。
総合 | 十分制 | 持続性 | 健全性 | |
指数 | 48.2 | 54.1 | 32.4 | 60.7 |
評価 | D | C | E | C⁺ |
新聞の記事でも解説されている通り、日本の評価を押し下げているのは、3つの分野のうち持続性の評価が低いためです。
それでは、「持続性」の評価はどのように決められているのでしょうか。
持続性の評価項目は以下の8つです。括弧内の数字は日本のスコア(10点満点)を示しています。
1.現役世代の私的年金の加入率(5.5)
2.公的および私的年金制度で保有されている年金資産の対GDPの比率(3.1)
3-a. 平均寿命と支給開始年齢の差(1.4…a~dのトータル)
3-b. 平均寿命と支給開始年齢の差の将来(2035年)予測
3-c.老齢人口(65歳以上)と生産年齢人口(15歳~64歳)の比率の将来予測
3-d.合計特殊出生率の平均(2010~2015年)
4.公的・私的年金の保険料・掛金(労使合計額)の内、将来の給付のために運用されている額の賃金に対する比率(0)
5.55~64歳の労働力率と65歳以上の労働力率(8.6)
6.政府債務残高の対GDP比率(0)
7.高齢労働者が就労しながら公的・私的年金を受給することができるか。
その際に、保険料・掛金を払って将来の年金を増やすことができるか。(4.0)
8.7年間(過去4年と今後3年)の平均経済成長率(3.3)
これらの中で特に評価が低いのは、3、4、6ですね。
3については、a、b、c の評価はゼロです。これは、平均寿命の延びに対して支給開始年齢が65歳と他の先進国と比べて低いことと、少子高齢化のために、生産年齢人口に対する老齢人口の比率が高くなってきているためです。
しかし、この二つだけの項目による評価は、必ずしも妥当とは言えないと思います。
なぜなら、前者に関しては、支給開始年齢の引き上げではなくマクロ経済スライドという給付抑制策があるにも関わらず、これが評価の対象に入っていません。マクロ経済スライドは名目下限措置のために十分機能していない面はありますが、それならばそのように評価することがフェアではないでしょうか。
また、後者については、支える側と支えられる側を年齢によって区分することの問題があります。よく、少子高齢化のために、みこし型から肩車型になってきているという解説をよく見ますが、就労者に対する非就労者の比率は昔も今もそれほど変わっていないというデータもあります。
4については、賦課方式を採用している他の先進国も低い評価になっていますが、だからと言って積立方式の方が優れているということでもありません。
結局、谷口氏のコラムでも述べられている通り、共通の項目を用いて各国の年金制度を評価しようという、コンサルティング会社の試みは興味深いところではありますが、その表面的な評価だけを見て自国の年金制度の批判をすることはフェアとは言えないでしょう。
日経は、ただ支給開始年齢の引き上げを言いたいがために、このランキングを利用しているように感じるのは私だけでしょうか。
この記事が出た日に、社会保障審議会年金数理部会が開催されましたが、委員の方からも記事に対する苦言と思われる発言も出ていました。日経が支給開始年齢の引き上げに固執することは勝手ですが、自論に都合の良い情報をただ掲載するだけでは、かえって年金制度に対する信頼を損なってしまうということに、十分に注意して欲しいと感じました。