金融庁レポート(旧金融レポート&金融行政方針)
金融庁から随分長いタイトルのレポートが公表されました。
レポートのリンク:変革期における金融サービスの向上にむけて~金融行政のこれまでの実践と今後の方針(平成30事務年度)について~
金融庁は平成27年から、毎年「金融行政方針」を示し、その実施状況を「金融レポート」で検証するというPDCAサイクルに基づく業務運営を行っていますが、今回は、平成29年度の金融行政方針を検証する「平成29年度金融レポート」と、それを受けて平成30年度の方針を示す「平成30年度金融行政方針」を一つのレポートにまとめて公表したということです。
参考のために、平成28年度金融レポートと、平成29年度の金融行政方針について書いたブログのリンクはこちらです。
関連ブログのリンク:
今回のレポートは、152ページもあるものですが、その中で私の目に留まったところを取り上げて、必要に応じてコメントしてみたいと思います(レポートからの引用は、ダブルクォーテーションで表示、強調表現は筆者によるもの)。
- 販売会社における顧客本位の業務運営(34ページ)
銀行におけるリスク性商品(投資信託と一時払い保険)の販売状況について、以下のような検証結果が報告されています。
主要行等の営業店(全店合計)について、月次のリスク性商品(投資信託と一時払保険)の販売状況を検証した結果、四半期末ごとに販売額が増加しており、特に、運用環境に左右されにくい一時払保険の販売において顕著な増加が見られた(図表Ⅲ-2-(1)-3)25。 投資信託の平均保有期間や保有顧客数が伸び悩んでいる26ことも踏まえると、営業現場では、収益目標を意識して、期末に向けてプッシュ型営業により、特定の顧客に対し乗換取引を繰り返している可能性が窺われる。
- 運用会社における顧客本位の業務運営(35ページ)
一方で、自社の経営方針や運用哲学、それを踏まえた強みや運用力(パフォーマンス)を示していくことが他社との差別化で有効であり、また顧客から求められているものであるとの考えから、一部の運用会社では、以下のような運用力を示す KPIを設定、公表する動きが見られている。
運用力を示すKPIも重要ですが、運用哲学、投資哲学についてもっと語り、情報発信して欲しいところです。
また、運用会社が、この共通の目線を販売会社とともに持つことで、顧客に成功体験をもたらす投資信託の開発・提供に向けた動きが促進されることが期待される。
「顧客に成功体験をもたらす投信の開発」とありますが、どういうことでしょう?私は、運用管理費用等の手数料が低く抑えられている投信が増えてきている中で、新たな投信の開発はそれほど重要ではないかと思っています。
顧客に成功体験をもたらすために必要なことは、新型の投信を開発することではなく、いかなる市場環境においても投信を保有し続ける、積立てを継続する、ということではないかと思います。上でも述べた、情報発信による顧客とのコミュニケーションを強化することが重要ではないでしょうか。
最近、元本確保型とかリスク限定型など、投資初心者に耳障りの良い商品名の投信が注目を浴びているようですが、私はあまり良いこととは思いません。ご参考までに、元本確保型投信について解説したブログを貼っておきます。
関連ブログのリンク:元本確保型投信の真実
- 高齢社会における金融サービスのあり方の検討(43ページ)
退職世代等の抱える課題は現役世代以上に複雑に絡み合っている。例えば、加齢に伴って認知能力、判断能力が低下していく中で自身の金融資産をどう管理・運用するかという点では、金融だけでなく、医学等に基づいた老年学の知見等も必要となってくる。近年、こうした学際的な研究分野としてフィナンシャル・ジェロントロジーが注目され始めている。
高齢化社会に対応するための取組みは必要ですが、そのために、新たな金融商品を開発する必要性は無いと思います。高齢者各人の資産や生活の状況に応じて、インデックスファンドなんかでシンプルに運用し、決めた額を取崩すようなサービスが中心になるのではないでしょうか。金融機関が、高齢者に適した金融商品なんて手数料がてんこ盛りの商品を開発、提供しないように注視したいと思います。
あと、老後の生活設計をする上では、公的年金制度を正しく理解して活用することが不可欠です。公的年金に関する情報提供無しに、金融商品や保険による提案がされることの無いようにしなければなりません。公的年金は、厚労省が管轄しているためなのかもしれませんが、金融リテラシーの向上のパート(42ページ)の中で、投資教育という言葉しか見当たらなかったので、ちょっと気になりました。
- 保険会社における顧客本位の業務運営(98ページ)
保険会社から提供される商品等の内容が顧客本位といえるか否かは、あくまで顧客の判断によるものであるが、その前提として、保険会社においては、商品の「見える化」等に取り組む等、顧客が自らのニーズに適った適切な選択をなし得る環境を整備することが重要である。
商品の「見える化」とは、顧客本位の業務運営に関する原則で求められている「重要な情報の分かりやすい提供(原則5)」と関連しているのではないでしょうか。本レポートでは、変額個人年金保険を取り上げて、投資信託とのリスク・リターン分析をしていますが、少々分かりづらいので分析の詳細は割愛して、結論だけを見てみます。
以上のように、個人年金保険のような貯蓄性保険の販売に当たっては、こうした商品固有の特性・リスクや、上記分析には反映されていない保険本来の保障サービス部分の受益等も含めて、商品が自らのニーズに合致しているか顧客に理解されることが重要である。
この点について、手前味噌ですが、私がブログで取り上げたことのある、有期型の変額保険の比較が分かりやすいのではないかと思います。ご興味があれば、ご笑覧下さい。
関連ブログ:
生命保険協会に対して金融庁が提起した論点
ユニットリンクを検討している方へあと、貯蓄性保険として販売額が増加傾向にある、外貨建保険について、商品内容の情報提供が分かりやすく行われていない例として、以下の点が挙げられています。
・保険加入時の重要な判断材料となる為替変動等の各種リスク、運用利回りやコスト等の記載が募集資料上点在するなど分かりにくく、為替変動による元本割れ等にかかる苦情も発生している。
・ 定額の外貨建保険等の「積立利率」は、定義が商品によって異なるものの、募集資料でその定義を明確に説明している社はほとんどない。したがって、これを顧客が実質的な利回りと誤認しているおそれもある。
外貨建保険の実質的な利回りや、為替リスクに関する考え方を説明したブログのリンクです。
関連ブログ:外貨での運用について考える
- 仮想通貨(暗号資産)について(122ページ)
仮想通貨に関しては、セキュリティ、マネーロンダリング、投機性、など多くの問題がありますが、私が問題と思っているのは、その証拠金取引です。仮想通貨(暗号資産)の価格が乱高下し、仮想通貨(暗号資産)が決済手段ではなく投機の対象となっているとの指摘が聞かれる。さらに、証拠金を用いた仮想通貨(暗号資産)の取引 や仮想通貨(暗号資産)による資金調達等新たな取引が登場している。
外国為替でも証拠金取引はありますが、仮想通貨の場合は、証拠金取引が仮想通貨取引量の8割を占めており、現物取引を大きく上回っているという異常な状態です。そして、問題は、ボラティリティが高いとか、投機性が高いということではなく、現物市場との関連性が希薄であるということです。この問題については、改めてこのブログで取り上げたいと思います。
- その他
ここでは取り上げませんでしたが、今回のレポートでは、NISAを通じた資産形成の促進についても、多くのページが割かれていました。ここ2~3年の間に、金融庁の主導の下、投資信託の商品性や販売態勢については相当の改善がなされたのではないでしょうか。
一方、証券会社では、投資信託、株式以外にもいろんな金融商品を提供しており、それらに関しては、投信並みに手数料の開示や販売の適正化が進んでおらず、改善の余地があるのではないかと思います。ご興味があれば、関連ブログをご笑覧下さい関連ブログ:
割に合わない仕組債のカラクリを知る
“恐怖指数”ってご存知ですか?