ゴーン氏の為替スワップ契約を想像する

みなさん、明けましておめでとうございます。

なんて、今更ご挨拶するのは恥ずかしいのですが、今年最初のブログです。

昨日(1月8日)は、元日産会長のゴーン氏が久しぶりに公の場に出て、自らの潔白を訴える意見陳述を行いました。

ゴーン氏の白黒に関しては、これから法廷の場で争われることになり注目したいと思いますが、FPとしては、彼が行った「為替スワップ契約」の内容も気になるところです。

彼の陳述の中で、為替スワップ契約に関するところを見てみましょう。

私は、約20年前日産に入って日本に赴任した際、米ドルでの報酬の支払いを要望しましたが、それはできないと言われ、報酬は日本円で支払うという雇用契約を結ばされました。その時からずっと、私は、米ドルに対する円の変動に懸念を抱いてきました。私自身は、米ドル建ての生活を基本としております。私の子供たちは米国に住んでおりますし、私自身、米ドルとの固定為替レート制をとるレバノンと強い結びつきを持っています。そこで、私は、自分の家族を養うために、ドル建てでの収入が変動しないようにしたいと考えていました。

そこで、私は、日産に入ってしばらくした2002年以降、為替スワップ契約を締結していました。現在私にかけられている容疑では、2つの為替スワップ契約が問題となっています。一つは06年に締結したもので、当時日産の株価は約1500円で、円・ドルの為替レートは約118円でした。もう一つは07年に締結したもので、当時日産の株価は約1400円で、円・ドルの為替レートは約114円でした。

ところが、08年から09年にかけての金融危機により、日産の株価は08年10月に400円、09年2月に250円にまで急落し(ピーク時に比べ80%超の下落)、円・ドルの為替レートは80円以下にまでドルが下がりました。これは誰も想像しなかった最悪の事態でした。銀行業界全体の仕組みが機能しなくなり、私が為替スワップ契約を締結していた銀行は、契約上必要となる金額の担保を直ちに差し入れるように要求してきましたが、私自身ではその銀行の要求に応えることができませんでした。(日経新聞より抜粋)

(1月11日追記)上のゴーン氏の陳述ですが、2009年2月にドル円の為替レートが80円を割ったように読めますが、これは90円の間違いではないかと思います。80円を下回ったのは、2011年の東日本大震災の後でした。

この為替スワップ契約というのは、簡単に言えば、ゴーン氏に対して円で支払われた役員報酬をドルに換えるもので、例えば、下図のような契約ではないかと想像されます。

この契約をゴーン氏が顧客として実行したと仮定すると、日産から毎年受け取る役員報酬10億円を、為替レートの変動に関わらず、1千万ドルに交換することができます。しかも、この契約による交換レートは、1ドル=100円なので、契約時の市場における為替レート(1ドル=114円~118円)より有利に見えます。

しかし、為替スワップの交換レートと市場の為替レートの差は、日米の金利差を反映したものであって、実際は有利でも不利でもないのです。むしろ、ゴーン氏の陳述の通り、リーマンショック時の急激な円高によって、顧客であるゴーン氏は巨額の含み損(18億円と報道されています)を抱え、銀行から担保を請求されることとなったのです。

一見単純に見える為替スワップ契約ですが、これが何故18億円にも上る巨額な含み損を生んだのでしょうか。

ごく単純に説明すると、次の通りになります。

1)為替スワップ契約における交換レート(1ドル=100円)は、市場レートが1ドル=114円~118円である時に、銀行と顧客が共に損得なしの状態になるもの。

2)リーマンショック時には、市場レートは1ドル=80円を割り、契約時から30円以上円高になっている。

3)2009年時点で契約期間の残存年数が7年とすると、7千万ドル相当の受け渡しが残っており、それが30円分円高になると、ゴーン氏は21億円(7千万ドル×30円/ドル)の含み損を被ることになる。

(2019年1月11日追記)上の追記で指摘の通り、ゴーン氏の陳述における為替レートがちょっとずれていたようです。スワップ契約締結当時の為替レートを115円とすると、2009年2月では90円をつけており25円分円高なので、7千万ドル×25円/ドル=17.5億円の含み損となり、報道されている額と近くなります(偶然だと思いますが)。

このような為替スワップ契約は、長期為替予約、あるいはフラット為替(契約期間中の交換レートが一定=フラットなので)と呼ばれており、リスクが非常に高い取引として知られているものです。

古くは、日本航空が同様な取引によって巨額の損失を被ったことが有名ですが、(会社の私物化云々はさて置き)ゴーン氏のような有能な経営者が、なぜこのような取引を行った(私の想像ですが)のか、疑問が残るところです。

また、このようなリスクの高い為替予約が内包されている金融商品は、私たちの身の回りにもあるのです。

三井生命が開発し、三井住友信託銀行で販売されている「フラット外貨終身」という外貨建保険です。

以下は、本商品のプレスリリースからの抜粋です(赤字による強調は筆者が加えたもの)。上で説明した為替スワップ契約と同じものであることが、お分かりになるでしょうか。

「フラット外貨終身」は、少額の保険料から始めることができ、万が一の場合に、ご家族に大きな保障が残せるほか、将来ご自身で使うことの出来る機能を備えた保険商品です。その最大の特徴は、外貨建保険でありながら、実勢の為替レートの変動にかかわらず、毎回の外貨建ての保険料を円に換算するレートが保険料払込期間を通じて固定されることで、保険料を「毎回一定額」でお支払いいただくことができる国内生保業界初の仕組みです。また、実際にお支払いいただく保険料は、ご契約時の為替レートで換算した円建ての保険料よりも低い水準で固定されるため、お客さまにとって有利な条件となっています

フラット外貨終身の場合は、仮に円高になっても、保険会社から担保を請求されたりはしませんが、保険料払込期間中に解約する場合は、解約返戻金が払い込んだ保険料を大きく下回るリスクが、通常の外貨建保険より大きいので注意が必要です。

フラット外貨終身は、以前に私のブログでも取り上げました。宜しければ、こちらもご笑覧下さい。

関連ブログのリンク:長期為替予約のリスク(外貨建て終身保険のことです)

 

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