再就職に役立つ雇用保険の制度
昨日旧知の知り合い(以下”Aさん”とします)から電話で連絡がきました。
話の内容は、残念なことに退職勧奨を受け、12月いっぱいで会社を辞めることになったということでした。Aさんは金融機関に勤務していましたが、ある日上司から呼び出されて退職を勧められたということです。
このように書くと、普通の退職勧奨で、Aさんは勧奨を受け入れて退職したのだろうと思うかもしれませんが、実際はもっと厳しい状況だったのです。
どういう事かというと、勧奨を受けると同時に、入館証は取り上げられ、会社のパソコンにログインするIDはロックされ、二度と自分の席に戻ることは許されなくなるのです。
私が長く働いていた外資系の金融機関では、このような形での退職勧奨は当たり前で、私も在職中は仕方のないことと受け止めていましたが、社労士の資格を持つ現在では、このような慣習は不当解雇に当たるのではないかと、疑問に感じます。
このような扱いを受けた人の中には、訴訟を起こす人もいたようですが、Aさんは、きっぱりとあきらめ、新たな就職先を探すことを決意したようです。
私は、FPとして退職後に必要な手続き等について、以下のような点を説明しました。こういうことは、人事の担当者も一通り説明してくれると思いますが、通り一遍の説明だったり、説明が不十分なこともあります。逆に、説明されたAさんもその場ではわかったつもりでも、いざとなるとどうだったか、よく覚えていないということもあるでしょう。
- 健康保険の選択:勤めていた会社の健保組合の任意継続か、居住地の市区町村が運営する国民健康保険か。
- 国民年金の手続き:1号被保険者の届出、保険料(30年度は16340円)の支払いが厳しければ、免除の手続きをする。絶対に放置(未納)はしないこと。
- 確定拠出年金の移換:勤務先で加入していた企業型の確定拠出年金を個人型に移換する。
- 雇用保険の給付:基本手当の所定給付日数の確認、その他知っておくと役に立つ制度。
Aさんは50歳で独身ですが、親御さんの世話をしています。一方、年齢的に、金融機関でこれまでと同じような仕事に就くことは難しいと感じていて、来年以降どうしようか不安を感じているようでした。知り合いからは、生命保険の営業員の仕事を勧められているけど、営業経験もあまりないし、どうしようか悩んでいるということも話してくれました。
そこで、私はAさんに次のようなアドバイスをしました。「この際、あせって目先の求人に飛びつくよりも、じっくりと腰を据えて、自分が自信をもって続けられそうな仕事を探す方が良いかもしれないよ。そのために役立つ雇用保険の制度について説明しておきますね」
というわけで、雇用保険の説明をしました。以下に説明する内容は、Aさんの現状に基づくものです。給付の内容は個別の事情によって異なるものなので、皆さん自身に当てはめる場合には、ハローワークのホームページや専門家と確認してください。
基本手当(いわゆる失業手当)はいくら位?
基本手当は、その名の通り雇用保険の一番基本です。一般の皆さんには「失業手当」という風に呼ばれているものです。
基本手当を受け取れる日数は所定給付日数と呼ばれており、下の表の通り、年齢、退職の理由、会社に勤務していた期間に応じて定められています。
Aさんは退職勧奨による退職なので、特定受給資格者として(2)の表が適用されます。また、今の会社に就職する前に失業期間があり、基本手当を受給していたので、被保険者であった期間は、今の会社に勤務していた期間の5年6カ月になります。
したがって、Aさんの所定給付日数は赤丸で囲った240日ということになります。「もし、退職が半年ほど早かったら、180日になっていたから良かったね」と大して慰めにもならない言葉をかけたら、「そうですね」と明るく返事をしてくれました。
しかし、次に金額の話をしたら、Aさんの声はちょっと沈んでしまいました。Aさんの年収は賞与除きで6百万円、月額では50万円でしたが、基本手当には上限があって、Aさんの場合だと1日あたり8250円、1か月で25万円程になるのです。これまでの収入の半分でやりくりしなければなりません。幸いAさんは独身だったので、何とかなるでしょうと、前向きに切り替えていました。
このように、基本手当の上限は案外低いのです。現在の収入が高く、家族を扶養しているような方にとっては、基本手当だけでやりくりするのは大変かもしれません。
公共職業訓練でスキルを身につける
Aさんにお話ししたもう一つの制度は、公共職業訓練です。金融機関で長く事務系の仕事をしていたAさんですが、これから金融機関以外の仕事に就くためには、新しいスキルや資格を取った方が良いのではと考えています。
そこで私がお薦めしたのが、公共職業訓練の受講です。ハローワークの指示で受講する場合は受講料は掛かりませんし、受講に要する費用として受講手当(テキスト代)、通所手当(交通費)などが支給されます。
公共職業訓練は、各都道府県毎に運営されていますが、自分の住んでいる自治体以外でも受講することができます。どのような職業訓練コースがあるか興味のある方は、下のリンクで調べてみて下さい。ITスキル、簿記、経理、医療事務などいろいろなコースがありますよ。
Aさんが自分にあった職業訓練を見つけてくれるといいと思っていますが、例えば、Aさんの英語のスキルを活かせそうな、貿易事務コースや国際ビジネスコースなどが合うかなあ、と思っています。
公共職業訓練は、各自治体において毎月いろんなコースが提供されていますが、コースによっては応募者が多く、希望しても受講できない場合もあるので、事前にスケジュールをよく確認して計画を立てると良いでしょう。
なぜなら、基本手当を一定の日数受給する前に、訓練を開始しなければならないからです。Aさんの場合だと、150日分の基本手当を受給する前に訓練を開始しなければなりません。基本手当をたっぷりともらった後で、さらに職業訓練を受けるというのはちょっと虫が良すぎるということでしょう。
そして、公共職業訓練にはもう一つお得なポイントがあります。受講中に基本手当の所定給付日数が終了しても、訓練が終了するまでは引き続き基本手当が支給されるのです。
Aさんには、この制度をうまく活用して、これから先長く働ける職を見つけて欲しいと思います。
参考のために、基本手当と公共職業訓練について解説されているハローワークのホームページのリンクを貼っておきます。
雇用保険には、この他にもいろいろな制度があります。もしAさんが首尾よく再就職できた場合、基本手当の残日数が一定以上であれば、再就職手当というお祝い金のようなものが支給されることもあります。
また、教育訓練給付金とか、それに付随して支給される教育訓練支援給付金という制度は、資格やスキルを身に着けてキャリアアップや再就職に役立てることができるでしょう。
皆さんには、雇用保険の制度を上手に活用して欲しいと思いますが、これらの制度にはいろんな条件が付されている場合もあるので、事前にハローワークや専門家とよく確認すると良いでしょう。
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