毎月勤労統計の雇用保険への影響
最近メディアを騒がしている毎月勤労統計ですが、これだけ注目を集めているのは、基幹統計として経済分析や政策立案に利用されているということもさることながら、雇用保険や労災の給付額に影響を及ぼしているためではないでしょうか。
しかも、影響というのが総じて過少給付となっているところが問題で、「消えた年金記録」よろしく「消えた雇用保険」という風に煽られるようなことがないか少々気懸りです。
下の表は、厚労省が公表した影響額をまとめたものです(日経より転載)。
これを見ると、追加給付の額では雇用保険の280億円が一番大きいですが、一人当たりにすると1500円程です。一方、労災と船員保険の一人当たりの額は、それぞれ3.3万円、16万円と大きくなります。これは、雇用保険は給付の期間がせいぜい1年程度であるのに対して、労災と船員保険は遺族年金や障害年金など、給付期間が長期に及ぶものであるためでしょうか。
これらの給付は、給付を受ける人の給料を基に金額が計算されていますが、給付を開始した後にインフレによって実質的な価値が減少しないように、賃金の変動に応じて給付額を改定していく仕組みが組み込まれています。
今回、毎月勤労統計で問題となっているのは、本来調査対象である従業員500人以上の大きな事業所が一部しか含まれておらず、これを正しく含めていれば平均給与額はもっと高くなり、これに連動している各給付も本当は高くなるはずだった、ということです。
それでは、影響を受ける人数が「のべ1900万人」と圧倒的に多い雇用保険について、具体的にどのような影響があるのかを見てみたいと思います。
雇用保険の給付は、対象者の「賃金日額」に基づいて算定される「基本手当日額」によって行われます。この2つの日額は、以下のように定められます。
- 賃金日額:退職の直前6カ月に支払われた賃金(賞与を除く)の総額を180で除して得られる額。ただし、上限と下限が定められている。
- 基本手当日額:賃金日額に一定の率を乗じて得られる額。率は賃金日額の範囲、年齢階層別に定められている。
具体的には、平成30年8月1日から1年間の基本手当日額は、以下のリンクで見ることができます。
厚労省ホームページのリンク:平成30年8月1日からの基本手当日額
この中から例として、離職時の年齢が45歳~59歳の方に適用される基本手当日額を下に示します。主なポイントは以下の通りです。
- 賃金日額の下限は2480円(全ての年齢階層で共通)
- 賃金日額の上限は16500円(年齢階層によって異なる)
- 給付率に対応する賃金日額の範囲を決める額(下の表における、2480円、4970円、12210円、16500円)は、毎月勤労統計の平均給与額の変動に応じて毎年改定されている。
- 賃金日額に乗じられる給付率は、賃金日額が低いほど高くなっている。
- 賃金日額の上限を月収に直すと50万円程になるが、上限に該当する人に支給される基本手当は、月額25万円程である。これは、月収が100万円だったとしても同じである。
それでは、毎月勤労統計の修正によって、基本手当日額はどのように影響をうけるのでしょう。
それは、対象者の賃金日額が上の表(厳密には給付を受けていた当時のもの)の(Ⅰ)~(Ⅳ)のどの範囲に当てはまるかによりますが、具体的には以下のようになると思います(毎月勤労統計の平均給与額が上方修正されるとした場合)。
- (Ⅰ)の下限値(2480円)か(Ⅳ)に当てはまる場合には、毎月勤労統計の平均給与額の修正がダイレクトに反映され、給付額は増えるでしょう。
- (Ⅱ)の場合には、修正によって対象者の賃金日額に適用される80%~50%の給付率が若干高くなり、やはり給付額は増えるでしょう。
- (Ⅰ)の下限値以外の場合と(Ⅲ)の場合は、給付額は変わらないでしょう。
- 修正によって(Ⅰ)~(Ⅳ)のカテゴリーが変わる場合は、増えることもありますが、変わらないこともあるでしょう。
総じて言うと、(Ⅳ)に当てはまる人の場合が金額的には一番影響を受けるのではないでしょうか。最初に一人当たりの平均額は1500円程と言いましたが、(Ⅳ)に当てはまる人はこれよりも多くなるかもしれません。
それにしても、長期間にわたって重要な統計調査が誤った手法で行われていたことについては、驚くばかりです。その原因の解明は徹底的にやって欲しいと思います。
一方、これを見て自分の給付額がいくらになるのか、雇用保険の対象者である1900万人がいちいち問い合わせることも、その対応に莫大な時間と費用がかかるでしょうから、あまり懸命だとは言えないと思います。雇用保険の給付は、それがなければ生活に支障をきたすというほどの金額ではないでしょうから、ここはしばらく様子を見て待つ方が良いのではないでしょうか。
このブログが皆さんのお役に立てば幸いです。ご意見、ご質問などがありましたら、こちらのお問合せページからお願いいたします。