データで確認する奨学金事業の現状(前編)

先週の日経に奨学金に関する下のような記事が出ていました。

日経記事のリンク:奨学金、全員から保証料 延滞増加で財務・文科省方針

この見出しを見ると、「延滞の増加」、「保証料による学生負担の増加」といった、ネガティブなイメージが先行してしまいますが、奨学金事業を運営する学生支援機構(JASSO)が公表しているデータ集(下のリンクを参照)を見ると、誤解されている点もあるのではないかと思います。

JASSOが公表しているデータ集:奨学金事業への理解を深めていただくために

このデータ集の冒頭の「はじめに」というページでは以下のように書かれています。

最近、JASSOの奨学金事業に関し、様々な報道や出版等がなされていますが、これらの中には、誤解に基づくものも散見されます
このような報道、出版等の影響により、「奨学金を利用して大学等で学びたい」と考える学生・生徒の皆さんが過度に不安を煽られ、進学や学業継続を断念してしまわないか、JASSOではこのことを最も懸念しています
そこで、実際のデータやファクト(事実)に基づき、奨学金事業に対する理解を深めていただくために、標記資料を作成しました。奨学金に関心を持つ多くの皆様方に、是非ご覧になっていただければと考えております。

このデータ集からいくつかポイントを取り上げて見てみたいと思います。

 

延滞額は増えているが…..

記事の中では、「卒業後の返済が滞っている延滞金は17年度に有利子分で約500億円と、07年度の2.7倍になった。」と解説されています。

これに対して、JASSOのデータ集から抜粋した下の表をご覧ください。この表は、有利子(2種)と無利子(1種)の合計額なので、新聞記事の数字と直接比較はできませんが、ポイントは明らかでしょう。

延滞額は増えているが、それは債権額が増えているためで、債権額に対する延滞額の比率は低下しています。

確かに延滞額が増えているからと言って、奨学金を借りて将来返済できなくなったらどうしようと心配しすぎる必要はないようです。

 

保証料による学生の負担は?

新聞記事の中では、「保証料で延滞を補えば制度は安定するが、学生の負担は増えることになる。」という解説がされています。確かに、機関保証になると保証料を払わなければならないので、人的保証に比べて負担は増加しますが、下のデータ集から抜粋したページをご覧ください。すでに49%とほぼ半数の人が、機関保証を利用しているのです。

それでは、機関保証による負担増加はどの程度なのでしょうか。

下の表は、保証料の負担の程度を例として示したものです。利息付きの第二種奨学金を毎月5万円で4年間貸与を受けた場合の例です。保証料は、新聞記事で示されている月額2千円として、学生には保証料を差し引いた毎月4.8万円が貸与されることになります。そうすると、4年間の保証料9.6万円を差し引いた、正味の総貸与額は230.4万円となり、これに対して15年かけて返済する総返済額は245.2万円となります。返済利率は、利率固定方式とすると0.27%ですが、保証料込みの返済利率は、それに0.56%上乗せした0.83%になります。

この保証料込みの返済利率0.83%が、高いか低いか、人によって感じ方は異なると思いますが、無担保でこの利率であれば十分低いと言えるのではないでしょうか。

日本政策金融公庫の「国の教育ローン」と比較してみましょう。ホームページで見ると、利率は1.78%(2019年1月15日現在)ですが、連帯保証人の代わりに保証機関による保証を選ぶと、やはり保証料がかかってしまい、上の例と同じ240万円を借りる場合だと、保証料込みの利率は2.55%になります。JASSOの奨学金がいかに有利かお分かりになるでしょうか。

今回、JASSOの奨学金の返済額は、「利率固定方式」の利率を用いて計算しましたが、利率の算定方法には「利率見直し方式」という方法もあります。この2つの利率算定方法の違いについては、以前にブログで解説したことがあるので、そちらをご覧になって頂ければ幸いです。

関連ブログ:奨学金の利率算定方法を確認しよう

 

ところで、奨学金と教育ローンには大きな違いがあります。それは、借りたお金を返済する人(債務者)です。基本的には、奨学金は学生自身が、教育ローンは親が返済することが建前です。そして、奨学金については、その返済が負担となって、就職した後の生活を圧迫しているという話も見聞きします。後編では、就職した後に奨学金を返済できずに延滞している人について、アンケート調査からその理由を探ってみたいと思います。

このブログが皆さんのお役に立てば幸いです。ご意見、ご質問などがありましたら、こちらのお問合せページからお願いいたします。

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