外貨建終身保険の見える化(後半)

今回は、前回に引き続き外貨建終身保険についてです。

前回は、外貨建保険の魅力とされている「高利率」について、商品説明書に大きく表示されている積立利率と、実質的な利回りの違いについて説明しました。

今回は、為替リスクに関する情報提供について見てみたいと思います

1.平準払いの外貨建終身保険の為替リスクは複雑

平準払いの外貨建終身保険では、保険料、保険金額、解約返戻金は、外貨建てで表示されています。しかし、ほとんどの契約者は、円を毎月外貨に換えて保険料を払い、保険金や解約返戻金を外貨で受け取ったら、それを円に替えて使うという形ではないでしょうか。

つまり、下の図で示す通り、外貨建保険について契約者の関心は、「円でいくら払って、円でいくら返ってくるか」という円ベースでの返戻率です。しかし、保険料の円貨額は毎月の為替レートに、保険金や解約返戻金の変化額は遠い将来の為替レートに依存しているので、それを定量的に把握することは難しい面があります。

したがって、商品説明書では為替リスクについて、「外貨建保険には、為替相場の変動によるリスクがあります」という定性的な注意書きか、せいぜい、下の図のような簡単なシナリオによる分析が示されているだけです。しかし、これだけで契約者は為替リスクについて十分理解することはできるのでしょうか。

ということで、以下では金融機関が自らのリスク管理に用いている手法を使って、外貨建保険の為替リスクの「見える化」をしてみたいと思います。

2.外貨建保険の為替リスクを「見える化」する

金融機関がリスク管理に用いている手法とは、「モンテカルロ・シミュレーション」といって、乱数を用いて将来の為替レートの変動をシミュレーションするものです。

下の図は、モンテカルロ・シミュレーションの仕組みを説明しています。現在のドル円レート(1ドル=112.5円とします)から、毎月の為替レートの変動を乱数によって生成するのです。そして、シナリオ1~3のような25年間(300か月)の為替レートの変動シナリオで、それぞれ円貨ベースでの保険料の額や25年後の解約返戻金を計算します。実際は、乱数によるシナリオの数は、3つだけでなく、もっと数多くのシナリオを生成してシミュレーションします。今回は、1万個のシナリオによってシミュレーションしました。

下に示す数式は、乱数によってどのように為替レートのシナリオを生成するのかを表したもので、ランダムウォークといって為替レートに限らず、金利や株価など金融市場で取引されている価格の動きをモデル化したものです。今回、私が使ったのは一番単純なものですが、金融機関ではより精緻なモデルを使っているので、それを外貨建保険用に利用しても良いかもしれません。

それでは、シミュレーションの結果を見てみましょう。シミュレーションした米ドル建終身保険(平準払い)は、前回のブログで使ったものと同じです。

契約例:35歳男性、60歳払込満了、保険金額10万ドル、月払保険料184.4ドル

(1)60歳時のドル円為替レートの分布
下の図表は、契約から25年後のドル円レートの分布です。左側の表は、右側の分布図を数値で表したものです。見方ですが、シミュレーションしたドル円レートを低い方から並べて、500番目のレートが5%のところに、1000番目のレートが10%のところに表示されています。

わかりやすく言うと、10%のところに示されている56.78は、「60歳時のドル円レートが、1ドル=56.78円より低く(円高に)なる確率は、10%である」という意味です。もう一つ例をあげてみると、95%のところに示されている212.64は、「1ドル=212.64円より高く(円安に)なる確率は、5%である」ということです。

最小値や最大値の値が実現する確率は、それぞれ1万分の1で非常に小さいのであまり気にしなくてもいいかもしれませんが、下の5~10%、上の90~95%というところは、確率は高くないけど起こりうるケースとして考えておいた方が良いでしょう。

 

(2)払込保険料(円ベース)の総額の分布

為替レートの分布だけを見てもイメージがわかないかもしれません。下の図表は、35歳から60歳の間に支払う保険料の総額(円ベース)の分布です。

一時払いの外貨建保険だと、契約後に円安になれば嬉しいと思いますが、平準払いの場合は、あまり円安になってしまうと、毎月支払う保険料が円ベースで増えてしまい、それが家計の負担になる場合があり得ます。

今回の契約事例では、毎月184.4ドルで、25年間の総額で55,320ドルになります。契約時の為替レート(1ドル=112.5円)で、「毎月20,745円で、25年間の総額で622万円程」と予定していても、円安になってしまうとこれが増えてしまう可能性がある訳です。

そこで、下の分布を見て、「保険料の総額が予定より100万円以上増えてしまう確率は20%くらいある」ということを予め理解し、その場合の家計への影響は大丈夫かと確認しておくことが必要ではないでしょうか。

 

(3)返戻率(円ベース)の分布

次に、円ベースでの返戻率の分布です。外貨建保険だと、円高になると損をするという漠然としたイメージを持っていると思いますが、どうでしょう。下の分布をみると、10%の確率で円ベースの返戻率が74%以下になってしまうということが分ります。一方、(1)の為替レートでは10%に対応する為替レートは、1ドル=56.78円と今の半分です。

つまり、平準払いの場合は、円高になると円ベースの保険料が安くなるので、仮に超円高になっても、返戻率はそれほど悪化しないということが数値として分かりやすく示されています。逆に、為替レートの最大値(超円安、日本の財政破綻シナリオでしょうか)は、1ドル=594.63円ですが、返戻率の最大値は261%となっています。

 

以上、平準払いの外貨建終身保険の為替リスクの見える化について説明しました。今回、私がシミュレーションに用いたモデルはごく単純なもので、例えば以下のようなファクターを取り入れた精緻化が考えられます。

  • 二国間の金利差
  • 極端に円高、円安に振れた場合に、長期での平均的な水準に戻る力が強くなる性質(平均回帰性)
  • 積立利率の変動(今回は3.5%と固定)

 

金融庁が指摘した、外貨建保険に関する情報提供のあり方については、今後も注目していきたいと思います。

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